歌人でコーダーな綾部葉月のポートフォリオ兼アーカイブ

キミのいない町

キミのいない町に住んでるぼんやりと干した洗濯物がそよいで

荷造りをするより虫干ししたくなる予報を裏切る青空がある

書いて消し書いてまた消す下書きのままの手紙を量産する春

やることがすべて初めてこの部屋で暮らしてくこと後悔すこし

帰りたい気がする(どこへ?)実家ではなくて過去へと帰りたい気が

慣れるって怖いことばだ生活は真新しくて目まぐるしいのに

できるだけ新住所の欄丁寧に書いてわたしは新住所に住む

今さらのように楽しくなってきた希望とノートに書く二十二時

ああやっとわたしがいえにいることにやすらぎをえるわたしだけ春

キミはもう列車の中にいるだろうわたしは目覚ましに手をのばす

ひと晩が永遠に思える夜があってキミとつないだ手が冷えていく

鮮明で触れそうなほど近かった景色も今は夢の一部だ

キミはまだ春雨の中立っている雨の向こうをまっすぐ見てる

歓声が聞こえる陽の差す方向へきっと約束なんて要らない

朝焼けが視線の先に貼りついて剥がれやしないとキミが笑う

キミのいる町へ向かおう小さめのリュックサックを持って向かおう